ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

シーン・カット・テイクを意識した写真撮影プロセス

撮影にまつわる情報を整理するフレームワークを紹介します。

はじめに

「シーン」「カット」「テイク」という言葉をご存知ですか?元々は映画用語ですが、写真を撮影する時にもこの概念を理解しておくだけで、効率的な撮影計画を立てることができ、撮影現場での撮りこぼしを激減させることができます。さらに付随的ではありますが仕上がりのクオリティを上げることさえできます。

もちろんこの概念を知らなくても写真は撮れますし、しっかりとした撮影リストを作っていれば効率的に写真を撮ることはできるでしょう。とはいえ、業務として写真撮影に慣れていない方にとっては撮影項目をうまく整理するのも難しいもの。中途半端な状態で撮影に臨むとミスの可能性が高くなります。

慣れない時期によく起こすミスは「撮りこぼし」です。

  • 撮影依頼者の意図を理解できていなかった
  • 撮影現場で撮らなければならないものに気付かなかった
  • 慌ただしくて時間切れになってしまった

などなど考えられる原因は多岐に渡ります。例えば、撮影現場で良さげなカットを撮れそうな場所を見つけた時、ひたすら似たような写真を撮り続けたことってありませんか?

「この場所からの構図はなかなか悪くない」
「もうちょっと待てば、よりよい画が撮れる」
「念のため、あと数枚撮っておこう」

そうこうしているうちに、同じ場所で似たような写真をひたすら撮影し続けてしまい、いつの間にやら撮影時間がなくなって、他にも撮ろうと思っていた写真を撮りこぼしてしまうといったことが起こり得ます。こういった撮りこぼし、撮り忘れは、どの場所でどんな写真を撮る必要があって、それぞれの写真は何がどうなっていればOKなのか事前に明確にできていないから起こることです。

具体例をひとつ紹介します。以下の写真は、弊社の石巻復興ベース開所1週年記念式典の様子を撮影した写真です。

【A】似たような写真をひたすら撮り続けた例

【B】バリエーションを作った場合

ここで撮影した写真は「社内広報誌に掲載して全社員に配布する」という用途に使われると仮定します。社内広報誌ですから記事と写真をミックスした構成であろうことが予想されます。ライターさんがどのような記事を書くか明確にわからないため、後から記事にしやすい写真を撮り揃えておくことが求められます。

そのような要求に対して【A】のような撮影をしてしまったとします。マイクの前で話をしている人の身振り手振りの差こそあれ、基本的には同じ場所で同じ人を撮影した写真であり、ほぼ同じ写真です。仮にこのイベントの写真がこの3枚しか撮れていなかったとしたら、社内広報に掲載できるのはこのうち1枚だけです。

一方で【B】はマイクの前で話をしている人を撮影したら、その後すぐに「話を聞いている来場者の様子」や「各所から寄せられたお祝いの品々」の様子を撮影しています。記事の構成によりますが、この3枚とも社内広報に掲載できる可能性があることがわかると思います。

実際ここまで極端な事態になることは少ないでしょうが、イベント後に撮影した写真を冷静に見なおした時に、想像以上にバリエーションが少なくてヒヤヒヤした経験をした人もけっこう多いのではないかと思います。

今回お話しするシーン、カット、テイクとは、これら撮影に必要な情報を整理するためのフレームワークです。業務で写真撮影を行う時はぜひこの概念を思い出してみてください。

シーン・カット・テイクの概念

シーン、カット、テイクの概念を説明するために、一つのドラマ設定を作ってみました。このドラマ設定を撮影すると仮定してシーン、カット、テイクの概念を説明しますので、まずはサラッとご一読ください。

▽タイトル
「年末の挨拶まわり」

▽設定
取引先の担当の方が年末の挨拶まわりでヤフーに訪問してくださる様子をドラマ仕立ての映像で表現したミニドラマ。

▽ストーリー
六本木交差点から東京ミッドタウンへ向けて、ひとり、スーツ姿の男性が歩みを進める。先週降った雪が歩道の端に少しだけ残っているが、路面自体はここ数日の好天によりしっかり乾いていて歩きにくさは感じられない。

スーツに黒いロングコートを羽織った男性は片手に大きな紙袋を抱えており、間口から筒状のものが2本飛び出している。

クリスマスイルミネーションのシーズンも終えて東京ミッドタウンでは正月飾りの準備が進む。ミッドタウンタワー1階入口の前では巨大な門松を設置している傍らを通り抜けて建物の中へ。

ヤフーの来客エントランスで受付を済ませ、その場で待っていると背後からやってきた担当者に声をかけられる。一言二言挨拶をしてから会議室へ移動する。

会議室では一年間ともに進めてきた事業を振り返りながら言葉を交わし合いつつ、スーツ姿の男性が手持ちの紙袋に入っていた筒状のものを取り出して手渡してくれた。筒を開くと来年度のカレンダーだった。

この、よくある年末の挨拶まわりの様子を映像化すべく撮影場所を書き出すと以下のようになります。

【撮影場所】

  • 東京ミッドタウン1階の外部エリア
  • ヤフー来客エントランス
  • 会議室

それぞれの場所での具体的な撮影項目を書き出すと以下のようになります。

【具体的な撮影項目】

▽1階外部

  • 歩道の全景、真正面から歩いてくる男性
  • 左手に持つ紙袋アップ
  • 紙袋から飛び出す筒のアップ
  • 門松設置中の正門前全景、横切って建物に入る

▽来客エントランス

  • 来客受付カウンター全景
  • カウンターで手続きする男性ウエストショット
  • 手続き後カウンターで振り返ったところに担当者がフレームイン
  • 来客男性と担当者の横位置2ショット
  • エントランス全景 担当者に促され会議室へ向かう2人

▽会議室

  • 会議室中から扉口 2人が入室する
  • 扉側から会議室全景 2人が席に向かい合って座る
  • 来客背後から肩ナメ、Y!担当者
  • Y!担当者側から会議室ワイド 2ショット
  • Y!担当者肩ナメ、来客カレンダー出す

ここで言うところの撮影場所が「シーン」で、撮影項目が「カット」です。ドラマの場合、一つのカットを撮影するにあたり、意図通りに撮れなければ何度も撮り直しをします。この時のNGもOKも含めた全ての撮影を「テイク」と言います。

先ほどの撮影場所、撮影項目を表組みすると以下のようになります。

このように、どのシーン(場所)でどのようなカット(撮影項目)を撮るのか一覧化した表のことを「香盤表(こうばんひょう)」と言います。実際は最も細かくて、カットごとの出演者、小道具、衣装、カメラポジションなど詳細がびっしり書き込まれているものなのですが、今回は関連する部分だけ抜粋して作成しました。

この香盤表のシーンナンバー2、カットナンバー1、略して2-1のカットは「来客受付カウンター全景」です。NGなく1回で撮影できればテイク1で終了です。しかし背後に思わぬ通行人が映り込んだりして撮り直しを行った場合は二度三度撮影します。その場合はテイク2、テイク3と同じカットを何度も撮影します。3回目にしてOKが出た場合は「2-1-3がOKテイク」と言います。

写真撮影におけるシーン、カット、テイクとは?

映像撮影におけるシーン、カット、テイクの概念はご理解いただけましたか?ドラマや映画などストーリーのある撮影の場合はこの概念で全体の進行管理を行うのは必須ですが、バラエティや報道でもこの概念を知っておくだけで撮りこぼしを減らせます。

写真撮影においてもこの概念は有効です。例えばあなたが取材カメラマンとして撮影を担当することになったとします。現場で何をどのように撮ればよいのか整理するのにもシーン、カット、テイクの概念は役に立ちます。

【例1】レストランで料理レポートを撮影する取材の場合

【例2】ホテルの会議室で行われる対談を撮影する場合

まとめ

最後に、シーン、カット、テイクの概念をあらためてまとめます。

▽シーン

シーンとは撮影を行うべき「場所」のこと。シーンを意識することで、撮影すべきポイントが何箇所存在するか事前にピックアップできるようになります。

▽カット

カットとは同一箇所における「撮影項目」のこと。カットを意識することで、同じ場所で被写体をどのような構図、アングルで撮るべきか、画作りのバリエーションを事前に考えておくことができるようになります。

▽テイク

テイクとは同一箇所の同一撮影項目における「繰り返し撮影回数」のこと。テイクを意識することで、クライアントに求められるクオリティに対して何をどうすれば要求レベルに到達できるのか事前に意識することができます。

この3つの概念を覚えておくことで、何箇所で撮影を行うのか、どの程度、画作りのバリエーションが必要なのか、何がどうなればOKなのか、撮影にまつわる意思決定事項を事前に明確にしておくことができます。

ここまで事前にしっかり定義できていると、撮影現場では段取りよく撮影を進めていくことができますし、必要カットを押さえるべくテイクを重ねているときにも迷いがなくなります。

「求められるクオリティに達していないからもうちょっと粘るべきか」

「要求レベルをクリアしたので次のカットに移ってよいか」

といった判断を下せるようになります。結果、無駄に一つのカットに時間を使いすぎて撮りこぼしが発生することもなく、ロケの所要時間を短く済ませることができます。

とはいえ、最初は何がOKで何がNGか判断できないと思います。もっと言うと、どのシーンでどんなカットを撮ればOKなのかもわからないと思います。従来、この手の画作りのバリエーションは、先輩フォトグラファーの現場にアシスタントとして同行しながら撮影の様子を見たり、クライアントが納品した写真の中からどんなカットをセレクトして媒体に掲載したのか事例を見たり、数々の現場で経験を積むことで徐々に身につけていくものでした。

ところが昨今はウェブ上に多数の実例が転がっています。例えばインタビュー撮影の画作りバリエーションを知りたければ、Yahoo!画像検索で「インタビュー」と検索したら、膨大なインタビュー写真が表示されます。まずはこれらの実例を見ながらバリエーションを学び、マネするところからスタートするのがよいかと思います。ウェブや雑誌などいろんな媒体から多種多様な雑多な情報をインプットしまくって、撮影現場でトライアンドエラーを重ねることで、最終的に「スキル」として自分自身の引き出しを増やすことができるようになります。

業務で写真撮影を行う方は、撮影項目を整理するフレームワークとして「シーン、カット、テイク」をご活用ください。

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