ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

ポートレート撮影会のセッティングと段取りの記録

はじめに

5月下旬のこと、「ビジネスフェスタ」というイベントでポートレートの撮影会を行いました。

同イベントの主目的はビジネスパーソンの学びと交流。会場には6つのブースが用意されていて、様々な分野の専門家が講演を行うことになっているのですが、ブースを担当してみてはどうかと主催者よりお誘いいただきました。

当初はフォトグラファーとして「依頼を受けて実際に撮影して納品するまでのプロセス」を紹介しつつ、顧客視点で気を配っていることなどを語りながら、俯瞰してビジネス全般に通じるマーケティング志向の話でもしようかと考えたのですが、いろいろ考えた結果やめました。

そもそもフォトグラファーとして最も期待されて価値あるアウトプットは何か。それは写真を撮ることです。ということで、私のブースでは講演ではなく写真撮影会を行うことにしました。

ということで、このエントリでは同イベントで撮影会を開催するまでの検討項目や段取りなどをまとめてみました。

どのような写真にするか

ビジネスイベントで撮影するポートレートですから、被写体の方がビジネスで使えるポートレートとすることにしました。としたときに、どういった画角と背景にするか考えてみたのですが、今回のイベントの会場はいわゆる大きな会議室みたいな場所なので、おそらく背景として適切な場所はなさそう。それに今回はかなりの参加者が見込まれていたこともあり、仮に映える背景があったとしても人の映り込みを避けるのは至難の業。スペースの余裕もそんなにはありません。ということで、今回は白背景バストショットのポートレートとすることにしました。

レイアウトを考える

白背景のバストショットを撮ると決めたわけですが、実際に撮影できるだけの環境なのか確認が必要です。そこで事前に主催者から会場レイアウト図を共有いただき、私が使えるスペースを確認してみることにしました。

この図を見ると、私が担当するブースはメイン会場や他ブースとの仕切りなしのオープンスペース。ざっくり奥行き3m x 横幅4mほどの空間であることがわかります。壁の色は白とのこと。こちらをベースに会場レイアウトを組んでいきます。

ということで、考えたセットがこちら。バストショットのポートレートなので、いわゆる被写体真正面上部からのキーライトと下部からのおさえライトという、いわゆるクラムシェル配置。さらに背景用にもライトを1灯用意して、背景の白壁に淡いグレーグラデーションを作ります。

ちなみに、奥行き3mとなると、それなりのスペースがあるように感じるかもしれませんが、実はけっこう狭いのです。ポートレートを撮るときは被写体の広角歪みをなくすために、焦点距離はだいたい100mm以上で撮ることが多いのですが、今回は引きジリがないので70mmにします。

数人を撮るだけであればカメラは手持ちでもいいのですが、今回は最大で100人程度を撮る可能性もあるので、手持ちで都度都度画角を整える手間を省くために三脚を持ち込んで画角を固定することにしました。

機材の運搬やセッティングの簡略化のために照明機材を軽量コンパクトなバッテリー駆動のものにしたかったのですが、最大100人程度を撮影するとして1人あたり5枚だったとしても最大500枚。となるとバッテリーが保たないかもしれないので、機材が若干重く大きくなるものの安定性を重視して電源駆動のストロボを持ち込むことにしました。

オペレーションを考える

ビジネスイベントでポートレートを撮ってもらえるブースを出展するとなると、物珍しさからお客さんが列をなす可能性も考えなければなりません。そのため、撮影待ちの方にはブースの横に並んでもらい、順番にご案内していく導線としました。

ちなみに、撮影時は来訪された方を次から次に撮影していけばいいのですが、撮影した写真は後日クラウド環境にアップして、それぞれの方々にメールで個別のダウンロードURLをお送りするという方法で納品を行います。初めてお会いする方を次から次に撮影するので、写真に撮った方のお名前がわからなくなってしまいます。仮に事前に名刺交換をしていても「この名刺の人はどんな顔してたっけ?」と、やはり誰が誰だかわからなくなりかねません。そこでホワイトボードに名前とメールアドレスを書いてもらい、撮影時にまずホワイトボードの写真を撮ってその後にテスト→本番と撮影を進めていく段取りとすることにしました。

ということで、並んでもらっている間にホワイトボードを書いてもらえるように、ブース横のテーブル①〜③の場所に以下のようなものを配置することにしました。

①ブース案内の看板がわりのハリパネ
②名前とメアドを書いてもらうホワイトボードとペン
③鏡、ブラシ、くし、ティッシュなどの身だしなみお手入れセット

今回はカメラとパソコンを接続して、撮影した写真をリアルタイムでパソコンに転送して表示する「テザー撮影」を行います。このパソコン画面を被写体の方にも見てもらえるように、ミラーリング用のサブモニタを用意して被写体の真横に設置しました。被写体の方は撮影された写真がどういった仕上がりになっているのか気になるもの。でも、カメラの背面モニタや私が確認する用のパソコン画面でチェックしようとすると、機材が並ぶ狭いブースの中を移動することになり、下手をするとケーブルに足を引っ掛けて機材が倒れてしまう可能性もあります。そのため、被写体の方が座ったままプレビューできるように、専用のモニタを用意することにしました。

リハーサル

今回私がこのイベントで撮影会をやると決めた時点で大きく2点の懸念がありました。

1)セッティング時間が長くても30分程度
2)最大160人の来場者をなるべく多く撮る

要するに準備から撮影中から撤収までスピードが命であるということ。時間や場所に比較的余裕のある案件であれば現場で試行錯誤しながら仕上げていくこともできますが、今回のようなタイトな現場を確実に回すためには綿密な準備が必要不可欠。ということで当日のセッティングやオペレーションを図に起こしたのが前項です。

続いて準備の段取り。本番当日は会場入りから開会まで30分しかなかったので、準備が間に合うかチェック。事前に本番同様のリハーサルを行った結果、所要時間はセッティングで15分、撤収で12分。一見すると余裕で間に合いそうですが、えてして当日の現場では想定外のことが起こるもの。実際それなりに想定外のことが発生したため、セッティングに要した時間は25分とけっこうギリギリ。

ここまで準備をして、実際に想定通りに運営することができたかというと、実際は想定外の連続でした。

本番当日

いよいよ本番当日。会場に入って大急ぎで機材をセットして、ライティングや画角のテストで自分自身を撮影してみたのがこの写真です。

私の髪がボサボサで、汗で顔がテカテカしているのはスルーしてください。まずこのテストシュートで気になるのは、何はともあれ背景です。背景用ライトで想定通りのグレーのグラデーションが表現できているのですが、この壁には2つの問題がありました。

前述のように今回は白背景のバストショットを撮影すべく、会場の白壁をそのまま背景にしようと目論でいたのですが、壁が想像よりも古くテーブルや椅子がぶつかったことによる傷や汚れがかなり目立っていました。そして、会場の現状復帰時にテーブル位置の目印として黄色のテプラが各所に貼られていたのです。

壁の汚れは如何ともし難いですし、目印のテプラを外すわけにもいきません。あらかじめわかっていたら背景用ペーパーやクロスを持参するなり対策もできたのですが、会場入りした後ではもはや手遅れ。ということで、背景用ライトの出力を上げて汚れやテプラを白飛ばしすることにしました。

実際に背景を白飛ばししてテスト撮影した写真がこちら。背景が真っ白すぎて若干単調な写真になってしまってはいますが、目論見どおり背景の汚れなどを見えなくすることができました。

といった感じでセッティングが完了して、いよいよイベントの本番開始。事前の想定どおり、次から次に撮影希望の方がお越しくださったのですが、想定していたオペレーションはうまくいきませんでした。撮影希望の方は順番に並んでいただき、お待ちいただいている間にホワイトボードに名前とメアドを書いていただくという流れを想定していたのですが、ビジネスイベントらしく来場者のみなさんは現場の空気や流れを読まれていて、私が撮影をしている間はちょっと離れた場所にいらっしゃって、私の手が空いたタイミングでお声がけくださるのです。要するに待ち時間で作業をしてもらうという目論見が崩れてしまったので、急遽段取りを変更。ホワイトボードを書いてもらうのをやめて、その場で名刺交換をして名刺そのものを写真に撮ってインデックスとするようにしました。

まとめ

今回このイベントでポートレートを撮影させていただいたのは合計46人。イベントは全体で2時間半でしたが、プログラム上、ブースで撮影をできたのは100分間だったので、ざっくり2分ちょいで1人を撮影していた計算になります。なお、この動画はイベント前半1時間の様子を1分間にキュッとまとめたもの。現場の雰囲気を感じていただけると幸いです。

ちなみに今回のイベント、事前にしっかり準備をしていたから本番は安泰。ということは全然なくて想定外の連続でした。自分が主催者として100%すべてをコントロールできるイベントであったり、スタジオでイチから撮影環境を作っていく場合であればある程度は想定通り流れをコントロールできるかもしれませんが、それであっても撮影現場は多かれ少なかれ想定外のことが発生するもの。いわんや、初めて訪れる会場で初めてお会いする人を撮影する現場においては、想定通りに進行することの方が少ないと思います。

とはいえ、想定外だから全てぶっつけ本番でOKというわけではなく、事前にあらゆる可能性を考えて準備をしているからこそ、想定外の出来事にも臨機応変に対応できるだけの構えができるのだと思います。

みなさんも「ここぞ!」という現場で撮影を担当する際は、あらゆる可能性を想定して準備をされることをオススメします!

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