ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

ポートレート撮影のワークフロー(現場編)

はじめに

先日ご依頼いただいたビジネスポートレート撮影をひとつの事例として、撮影の依頼から実際の撮影までのワークフローを紹介。

前回は写真の用途や仕上がりイメージの確認などの事前準備を紹介。今回は具体的な画作りから撮影現場の様子を紹介します。

撮影プラン策定

今回の撮影はフォーマル用途としての「白背景」とSNS掲載用の「背景あり」の2シーンの撮影が依頼人からのミニマムリクワイヤメント。あとは時間が許す限りいろんなバリエーションを撮りましょうと提案していました。そこで、今回はクイックに照明をチェンジできるシンプルなセットにした上で、なるべくバリエーションを作れるように工夫してみました。

今回のセットはこちら。レイアウト図の右側赤帯エリアが白背景を撮影できるスペースです。白背景の写真はこのスペース奥の椅子が置かれている壁の前で撮影します。背景ありの写真はそれ以外の場所を模索します。

セッティングプランと実際の撮影風景

今回は前述の必須2シーンのほかバリエーションをつけて全部で5シーンを撮影。それぞれのセッティング、撮影風景、仕上がり写真をセットで紹介します。まず各シーンごとの画像の見方を説明します。

右上:照明セッティング図
左下:撮影風景を録画した映像から切り出しした静止画
右下:実際に撮影した写真

という構成ですので、それぞれ見比べながらご覧ください。

シーン①

まずはミニマムリクワイヤメントの白背景から撮影。右上の照明セッティング図だと被写体の真正面にライトを2つ並べているように見えますが、左下の実際の撮影シーンをご覧いただくと同じ場所で上下にライトをセットしているのがおわかりいただけると思います。これはクラムシェルという配置でして、シェル=貝という名のごとく、被写体を2つの照明で挟み込むようにセットする手法です。

上部にセットしたアンブレラディフューザーがキーライト。これで顔を含む上半身を明るくフラットに照らします。が、アンブレラを使うことで柔らかい光が被写体を回り込むとはいえど、光源とは反対側の首の下などには影が出てくるもの。そういった影を薄くするために下段から光を当てます。この写真で言うところの足下のソフトボックスがまさにそれです。

ここで注意すべきは上下の光量のバランス。下からの明かりが目立つと、懐中電灯で顔の下から光を照射してお化けの真似をする、いわゆる「お化けライト」になっちゃいます。そこで下段のライトは1/3ぐらいの光量で照射しています。

ちなみに、見えづらいですが被写体の背後にも照明を1つセットしています。この照明は壁向きに照射していて、背景を明るく照らしています。背景全体をフラットに真っ白にするのも手なのですが、今回は下向けに照射することで下段を白、上段を薄いグレーとなるようなグラデーションを作ってみました。

シーン②

シーン②では顔に陰影を作ってシックな様子を表現してみました。シーン①で足下に配置していたソフトボックスを顔の向かって右斜め上45度ぐらいの位置から照射。これにより柔らかい光で顔の表面に淡い陰影を作ります。

背景用のストロボも外して背景を単色グレーにしてみました。こういった配置では被写体を壁に近づければ近づけるほど手前のソフトボックスから壁にあたる光の量が増えるので背景は明るくなります。逆に壁から離れれば離れるほど背景は暗くなります。

シーン③

シーン③は陰影をより強調したパターン。ソフトボックスの表面にグリッドをつけることで光の方向に指向性を持たせて拡散される光の量を減らしています。そうすることで顔の向かって左側に照明が当たって明るくなっている一方、右側が大きな影になっています。

こういった写真では被写体の顔に陰影がくっきり出ているのに背景が明るいと不思議な写真になってしまうので、背景も暗くします。シーン②の時よりも背景が暗くなっている理由は3点です。

1)ソフトボックスにグリッドを着けたことで背景に当たる光の量が減少
2)被写体と照明の位置をシーン②よりも壁から離す
3)カメラ背後の窓のブラインドを下ろす

前述のようにグリッドをつけることで光の拡散が抑えられるので壁に当たる光の量も減少しています。また、シーン②と比較して被写体の位置を壁から離しています。②と③の左下の現場画像をご覧いただくと被写体、照明、カメラ位置の全てが壁から離れた位置に移動しているのをご覧いただけると思います。

そして最後は窓のブラインド。この施設、カメラの背後に大きな全面ガラス張りのスライドドアになっていて、外のやわらかな光が差し込んでくる環境です。①と②では外光をそのまま残して撮っていたのですが、③は被写体背後を暗くしたいのでスライドドアのブラインドを閉めています。

ちなみに左下の現場画像の明るさが②と③で変わらなく見えるのは撮影しているカメラの自動露出補正の影響です。この位置にiPhoneをセットして現場の動画を撮影していたのですが、スマホのカメラは基本的に自動露出補正で、明るすぎるものを暗く、暗すぎるものを明るく補正してくれます。今回はブラインドを閉めたことで部屋の中が暗くなったので、自動的に明るくなるように露出補正がかかった結果、③の撮影上の明るさが②と同じになっているのです。

シーン④

シーン④ではテイストを変えて影を強調してみました。被写体には壁際に立ってもらい、向かって右上から顔方向にストロボを直当てしています。そうすることで陰影が強い画を作り出しています。

この写真のポイントは影です。太陽光のようなくっきりした明かりで壁に影が落ちる様子を表現しています。そのためには影のエッジをくっきり出す必要があるわけですが、ソフトボックスやアンブレラをつけた状態だと影のエッジが淡くなってしまうので、あえてライティングツールを使わずにストロボを直当てという小さな光を直接照射することで壁の影のエッジを出すようにしてみました。

シーン⑤

そして、最後のシーン⑤です。ミニマムリクワイヤメントの「背景あり」パターンです。施設左側の部屋は撮影背景になりそうなものがあまりなかったので、写真のようにエントランス脇のオブジェ棚の前で撮影しました。

すぐ横のガラス窓から柔らかい外光が入ってくるのでノーライトでも十分だったのですが、首の下や左頬のシャドウを若干起こすためにソフトボックスで少しだけ光を足しました。ここで大切なのはライトを入れる向きと強さのバランス。この写真は向かって左側から自然光が入ってきているので、心情的には右側からライトを照射してシャドウを起こしたくなります。が、自然界では逆サイドから光が入るということは本質的にはあり得ないので、下手に光を入れると違和感のある画となってしまいます。そこで逆サイドから入れるとしても軽めにとどめておくか、もしくは今回みたいに方向を変えずに角度をつけることで照射範囲を広げるといった対応を行う必要があります。

撮影順についての考察

撮影時はセットの時間を節約するために同じようなシーンをまとめて撮るのが鉄則。例えば今回の場合、白背景から背景ありからまた白背景に戻るとなったらセットチェンジに時間がかかってしまうので効率的ではありません。そこで白背景と背景ありはそれぞれまとめて撮影する必要があります。

シーン⑤の背景ありバージョンから先に撮って、その後で白壁前のシーン①を撮るという手もありますが、今回のセットでシーン①が一番照明のセッティングに時間がかかります。手間がかかる撮影を後回しにしてしまうと撮影時間が読めなくなる不安があったので、今回は①から⑤の順番で撮影しました。

まとめ

ということで5パターンのシーンを一気に撮影したわけですが、今回の撮影で要した時間は以下のようになっています。

セッティング:15分
撮影:25分
プレビュー:3分
撤収:7分
———————-
合計:50分

施設の予約時間は1時間なので、若干余裕を持たせて終えることができました。今回はプレビューで特に修正や追加がなかったから早めに終了できましたが、もし「もうちょっとこんな感じにしたい」「ついでに○○も撮ってほしい」というオーダーが出てくることを考えると、これぐらいの時間配分がちょうどいい塩梅だと思います。

今回の会場入りからセッティング、撮影、撤収までの50分間を動画で撮影して、1分間にギュッと早回しでまとめてみました。ポートレート撮影の現場まわしの様子をご覧いただければ幸いです。

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