ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

【EC商品写真】商品写真とはどういうものか

はじめに

2014年からECを運営しているショップの方々を対象とした「EC商品写真撮影講座」の講師を担当させていただいており、商品の置き方やアングル、ライティングなど撮影に関わるノウハウをワンセットでお伝えしています。この講座で個別の撮影のテクニックに入る前に、最初にお伝えしているのが「そもそも商品写真とは何か」「求めるレベルはどのあたりか」といった話です。世の中には写真撮影ノウハウについて書かれた本やウェブサイトは星の数ほどありますが、ECを運営されている方々がこれから売れる写真を撮ろうとしているときに、どのような情報にアクセスしたら自分が求める知識が得られるのかイマイチ見当がつかないという方も多いといます。そこでこのエントリでは商品写真とはそもそもどういった写真のことを指すのか、どういったレベル感の写真が必要なのかを書いてみます。

商品写真とスナップ写真の違い

最近はスマホカメラの画質が飛躍的に向上して、街を歩いていて気になる風景をスナップで撮るようなシーンであればスマホでもかなりのクオリティの写真を撮ることができるようになっています。特にスマホはいつでもどこでも持ち歩くものですから、スナップのみならずレストランで出てきたおいしそうな料理であったり、子供の成長記録であったり、あらゆるシーンで気軽に写真を撮ることができるようになりました。そういった写真は基本的には「目の前に現れたものをそのまま撮影」していることが多いのではないでしょうか。

例えばこの図の右上のように、街を歩いていたら日が暮れて空一面にキレイな夕焼けが現れたとします。このキレイな夕焼けをぜひとも写真に収めたい!ということで急いでカメラを取り出して夕焼けの写真を撮ってみたのが左上の写真。そうやって目の前に現れたものを写真に撮ることって多いと思います。このとき「夕焼けがキレイだから写真を撮る」ということをしているわけですが、ここでは無意識に以下のようなことをやっているわけです。

<スナップ写真を撮るときに考えていること>

  • 空全体のうち特に西の空でよりキレイな夕焼けが広がっている
  • 西の空の”あのエリア”だけを写真に収めよう
  • そのまま撮ると明るすぎてせっかくの夕焼け空のオレンジの色がしっかり見えないので、ちょっと暗めに撮ろう
  • 試しに撮ってみたら目で見ているほどキレイにオレンジが見えないのでホワイトバランスを変えてみるか
  • (などなど)

基本的には「目の前に見えている光景をどのように撮るか」ということで工夫を凝らすことになります。ですが、商品写真はさらに検討要素が増えます。

<商品写真を撮るときに考えていること>

  • 指輪の形状とリングの内側と外側を見せたいので斜め向きに置いてみよう
  • 真横から見たら形がよくわからないので、ちょっと斜め上からのアングルで撮ってみよう
  • スタイリッシュな感じに見せたいから斜め左上から光を当てて陰影をつけよう
  • 指輪全体にピントが合った状態にしたいのでレンズを絞ってピントが合う範囲を広くしよう

といった感じです。おわかりでしょうか。スナップなどは「目の前にあるもの」をいかに自分のイメージ通りに撮るかの世界です。目の前にある夕焼けの見え方そのものに手を加えることはできません。一方で商品写真は「これはこの位置から見ると商品の特徴がよくわかる」「この部分をよく見せるために光を当てよう」といった感じで商品の置き方やライティングなどを工夫することで被写体そのものの見え方を変えることができますし、むしろ自身が表現したい意図に沿って変えていくことが重要だったりします。

※スナップであったとしても近くの小さなものを撮るような場合は、被写体の位置を変えたりライティングすることは可能ですが、わかりやすく表現するためあえて細かい条件を書かずに「スナップ」と記載しています。本当はスナップも「こう撮りたい」という作画意図がないとうまく撮れません。

商品写真のレベル

さて、商品写真の特徴がわかったところで、続いては商品写真のレベルについてお話します。みなさんは商品写真と言うとどういった写真を思い浮かべますか?Amazonに掲載されているような白背景で商品だけが見える写真でしょうか?それともメーカーの公式サイトで表示されているようなイメージ写真でしょうか?商品写真といっても用途に応じて求められるレベルが分かれます。

上図のように一言で写真と言ってもレベルがあります。特に何も考えずにパシャっと撮った写真は「素人」レベル。撮影した写真を使って何かを成し遂げるという目的がないのであれば、別にどんな写真を撮ったって問題ありません。写真の撮り方に詳しくない方がヤフオクやメルカリで出品するためにとりあえず撮影したような写真もこのレベルです。このレベルを他の競技で例えてみます。例えば「フルマラソン」という競技の場合、写真で言うところの素人レベルは、いわばジョギングレベルです。フルマラソンですから42.195km走り切るのが一つの達成基準なわけですが、あえてそんな長距離走ることもなく自分のペースで好きな距離を走るジョギングとレベル的には近いと考えます。もうひとつ「将棋」を例に考えてみますと、とりあえず駒の動かし方はわかった上で友達とルール通り指す「趣味の将棋」などもこのレベルに近いと考えます。

その上にECのショップを運営している方々が商品を販売する目的で自ら撮影する「EC商品写真」というレベルがあります。ECショップ運営の方々は販売のプロですが写真撮影のプロではないので、写真撮影のスキルやノウハウがあるとは限りません。ですが商品を販売するためには「売れる写真」を用意する必要があります。この「売れる写真」、買い手側から見ると「買おうとしている商品がよく理解できる写真」を撮影できることこそがこのレベルです。商品を販売するという「ミッションを達成できるレベル」の写真を用意できている必要があります。フルマラソンでいえば42.195kmを走り切るだけの力が必要ですし、将棋でいえば定石をある程度覚えて趣味人には負けないぐらいのアマ有段ぐらいのレベルが近いのではないかと思います。

さらにその上には「メーカー公式」のレベルがあります。メーカーが商品を販売してくれる小売店に配布する公式写真となります。商品を作ったメーカー自身が商品の内容を余すところなく伝えられるクオリティの写真を用意します。誰が見ても違和感なく商品の特徴をしっかり理解できるクオリティの写真でなければなりません。ジョギングで言えば大会で上位に食い込めるようなレベル、将棋でいえばプロ棋士として活動しているようなレベルです。

そして最上位には「コマーシャル」用途の写真があります。コマーシャル写真もメーカーがオフィシャルに撮影するものですが、メーカー公式と用途が違います。メーカー公式は単色背景の商品単体写真、たとえばAmazonで言えば商品写真1枚目に掲載されているような写真です。一方のコマーシャル写真はポスターのクリエイティブに使われるような「商品そのものが持つイメージや訴求したい要素」が表現されているようなもののことを指します。明確な作画意図が必要で、販売用のクリエイティブというよりは、むしろ意図を持った作品と言ったほうが近いです。

※「メーカー公式」と「コマーシャル」は本来は明確に区分しにくく、本質的には上下関係で語るべき関係性のものではないのですが、一般的にはコマーシャルの方が写真に求められる要素が多く、撮影するにあたって必要なテクニックや手間も必要なため、あえてこのように表現しています。
※比較対象として「フルマラソン」や「将棋」が適切か自信がないのですが、何かと比較した方がレベルのイメージが伝わりやすいと思って書いてみました。多少的外れなところもあるかもしれませんがご容赦ください。

商品写真レベル別実例

前述の「素人」「EC商品写真」「メーカー公式」「コマーシャル」のレベル感の違いを実際の写真を紹介しながら説明します。今回実例で撮影したのは花王の「AUBEタイムレスカラーリップL5」です。本物のメーカー公式写真は以下ご参照ください。

①素人

テーブルの上に適当に置いてiPhoneでオートのまま撮影しています。フタを閉じていてメーカーロゴも隠れている状態なので何の商品なのかさっぱりわかりません。サイズも比較するものがないので、チラッと見ただけではステンレス水筒や茶筒と感じる人もいるんじゃないかと思います。さすがにヤフオクやメルカリに出品しようとする人でも、こんなに適当な写真を撮る人は少ないかと思いますが、特徴をわかりやすく表現するため、あえて極端に撮ってみました。

②EC商品写真

簡易撮影スタジオに白背景をセットして商品を配置して撮影しました。特別なライティングなく、明かりは天井の蛍光灯だけです。カメラで露出をプラス補正して背景の白がしっかり白になるように明るく撮影しています。被写体が全体的にのっぺりとした感じになってはいますが、フタも開けてブランドロゴもしっかり見えるように配置していることによって、この商品がどういったものか必要最低限には理解できます。

ちなみに以下のような簡易撮影スタジオを使うと誰でも簡単にキレイに光がまわった写真を撮ることができます。アマゾン、楽天、Yahoo!ショッピングなどに同等品が山のようにありますので、撮りたい商品のサイズに合った大きさのものをお使いになるとよいかと思います。おすすめは左右両サイドと天面の3面が半透明になっているタイプのものです。内側は白いけど外側が黒という商品もありますが、この場合はボックス外の光をボックス内にまわすことができないので、ボックス内に何かしらのライトを入れる必要がありますのでひと手間かかりますし、下手にライトを入れると光がうまく回らず変な影が出てしまうことにもなりかねませんのでご注意を。

③メーカー公式

メーカーが小売店に配布しているような単色背景、商品単体写真です。商品表面のメタリックな質感を表現するために左右にハイライトを入れて陰影を作っています。フタを閉めている様子と開けている様子を並べることで、商品の外装とリップ本体の色味の両方を理解してもらえるような撮り方をしています。

※本当は白背景で撮った方がよかったのかもしれませんが、この時は別の用途で黒背景撮影をしていたのでそのまま黒背景で撮ってしまいました。あくまでも作例なのでご容赦ください。

④コマーシャル

ポスターによくありがちなレイアウトで撮影してみました。作画意図としては「このリップは日中の屋外で長い時間活動していても落ちにくい」といった感じです。日中の屋外をイメージした硬い光でハイライトとシャドウをくっきり表現しています。商品本体を若干浮かせることで軽やかで活動的なイメージを表現しています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?商品写真とは商品そのものの見せ方をコントロールして意図通りの写真を撮るものであるということ、そして一言で商品写真と言っても、求められる用途によって仕上げのレベルが違ってくるということがなんとなく伝わりましたでしょうか。

商品写真の特徴である「商品そのものの見せたい部分を撮る」という点については、言い換えれば「撮影前に商品のここを見せたい」ということを考えておく必要があり、その見せたい部分は「お客様が商品を買うときにこの部分を見たがる」という部分でなければならず、そういった点を事前にリストアップしておく必要があります。このあたりの「商品をどのように撮るのか」というのは別エントリであらためてご説明します。

商品写真のレベル別に求められるクオリティの違いみたいなものはご理解いただけたのではないかと思いますが、実際にみなさんが撮影される際、どのクオリティをゴールとするのか実はけっこう重要なポイントとなります。そりゃせっかく写真を撮るのでしたらなるべくキレイに撮りたいと思うでしょうけれど、コマーシャルやメーカー公式のレベルの写真は撮影にけっこう時間がかかってしまうのです。撮影に時間がかけられる環境ならいいのかもしれませんが、ECショップの運営をされているみなさまは日々仕入れや在庫管理、配送など様々な業務で大忙しで、写真撮影にそれほど時間を割けないのではないでしょうか。みなさんはプロフォトグラファーとしてキレイな写真を撮りたいのではなく、「商品が売れること」をゴールとして「売れる写真」が撮れることが何より重要なのではないかと思います。そのためには限られた時間でスピーディーに必要にして十分なレベルの写真を撮ることができる必要があるかと思います。それこそが「EC商品写真」で求められるレベルとなります。今後EC商品写真の撮り方を数回に分けて掲載していく予定ですのでご期待ください。

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