ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

映える食材写真!撮影用容器としての「盆ざる」万能論

はじめに

みなさん「盆ざる」って知ってますか?竹を円形に編み込んで、真ん中が若干くぼんだ形につくられた器のことです。調理道具として食材の水切りに使われたりします。この盆ざるの何が万能なのか。

結論から書きますと、食べ物、特に調理前の食材をディスプレイする時には、食材を盆ざるの上に載せるだけで、どんなものでもそれらしく映えて見えるようになるのです。

食材展示に昔から使われていた盆ざる

最近は普段の生活の中で盆ざるを使う機会は少ないのではないかと思います。調理時の水切りで使うものといえばプラスチック製のざるが主流ですので、あえて竹製の盆ざるを使う機会も少ないと思います。ですが、はるか昔は盆ざるは一般的な調理道具として、全国どこででも目にすることができたものです。さらに言うと、料理のお皿やディスプレイとしてもよく使われてきました。

代表的なものといえば「ざるそば」「ざるうどん」ですね。最近は塗り桶の上面にすだれを敷いたものが主流ですが、そば処の名店などでは盆ざるにそばを載せて提供されることもあります。昔ながらの八百屋や魚屋で、野菜や魚といった商品をディスプレイするための器として盆ざるが使われることもあります。そのようなわけで、我々日本人は意識せずとも「盆ざるの上に食べ物が載っている姿」が脳裏に焼き付いているので、食材を撮影したり展示したりするときに盆ざるの上に載せると「おさまりがよい」と感じてしまうのです。

試しにパプリカを載せてみる

盆ざるの「おさまりのよさ」を表現するために、試しにパプリカを載せてみました。いかがでしょう?盆ざるの上に置いてるだけなのに、なぜか「それっぽい」と感じませんか?じゃがいもや玉ねぎといった日本で昔からよく使われている食材だけにとどまらず、パプリカのような洋風野菜であってもそれらしく仕上がるものなのです。

ちなみに、この写真は白背景で撮っていますが、こういった盆ざるが実際に置かれていそうなシチュエーション、例えば木目のテーブルの上などで撮影した方が、よりそれらしく仕上がります。

気をつけるべきは「置き方」です。被写体となる食材をきれいに見えるように置く必要があります。イメージすべきは八百屋の店頭ディスプレイです。キュウリだったら端をきれいに揃えた状態で2本を土台に1本を上に置いたり、みかんだったら3個を土台にして上に1個だけ置いて二段にしたりといった見せ方です。

八百屋は道を歩いている人が商品をチラ見しただけで、気になって足を止めてもらう必要があります。そのため、通行人に商品がよりよく見えるように配置します。食材同士が重なって見えなくならないように、配置をずらしたりして商品全てを見えるようにしたり、積み上げて高く見せたりします。特に高さを出すのはとても重要です。食べ物は高さを出すことで立体感が生まれ、立体感があるものはおいしそうに見えます。八百屋でキュウリやみかんを積み上げて二段にしたりするのもそのためです。

「八百屋」という被写体の配置方法

盆ざるそのものも傾斜をつけて置くことで、さらに仕上りがよくなります。

話が多少脱線しますが、テレビ業界用語に「八百屋」という言葉があります。被写体をカメラから撮りやすくするため、カメラ側から見て奥側を高くして被写体に傾斜をつけて配置することを言います。実際の撮影現場では「それ八百屋にしといて」といった感じで、状態を表す名詞として普通に飛び交う言葉です。下図のオレンジの物体が被写体だとした場合、床に水平に置くのではなく、このように傾斜をつけることで被写体に立体感を表現できます。この用語はその名の通り八百屋のディスプレイが元になっています。

実際の八百屋ではキュウリやみかんなど「1山300円」といったように販売単位でざるの上に商品が小分けにされていますが、このざるが上図のように若干傾斜をつけて置かれています。前述のように、道行く人に商品を見てもらって足を止めてもらう、いわゆるアテンションを取る必要があるため、商品の姿をよりよく見せることで「お!今日のキュウリはいいな」と気づかせようとしているのです。

盆ざるのバリエーション

話を盆ざるに戻します。

一言で盆ざるといってもサイズや形状に数多のバリエーションがあります。この写真のようにサイズは大小さまざま。さらに四角いものや深いものもあります。被写体に対して盆ざるが大きすぎるとスカスカに見えますし、逆だとギュウギュウに見えてイマイチな仕上りになってしまいますので、撮影する被写体に応じて適切なサイズ、形状のものを選ばれることをお勧めします。

まとめ

私は前職でテレビの番組制作会社で情報バラエティ番組の制作に携わっていました。大学を卒業して制作会社で働き始めたころ、当時ADとして携わっていた番組で食べ物をメインテーマとして取り扱う機会がありました。その時にディレクターから「食べ物がテーマの時は必ず美術さんに盆ざるを発注しとけよ」と教えてもらったのを覚えています。その教えの通り、食べ物の撮影では盆ざるは必須といっていいほど高頻度で使うものでした。食べ物単体を物撮りする時に使うのはもちろんのこと、例えば生産者からタレントに食べ物を渡すようなシーンを撮る時も、剥き出しでそのまま渡すのではなく盆ざるの上に載せた状態で受け渡しした方が様になるのです。

ちなみに、撮影で盆ざるを使うにあたって一点注意があります。「調理済みの食べ物」は盆ざるに載せてもうまく撮れないものが多いです。もちろん「ざるそば」や「天ぷら」のように盆ざるが映えるものもありますが、多くの調理済みの食べ物は映えません。そもそもカレーライスやハンバーグといったものを盆ざるに載せたとしても、ざるの隙間からカレールーや肉汁が落ちてきて大変ですしね。こういった調理済みの食べ物は食器に盛り付けた状態が最も美しく撮影できます。盆ざるに載せることで、それらしく、おさまりよく仕上がるのは野菜、魚、肉といった食材そのものです。野菜は直置きでもいいですが、魚や肉などは盆ざるの上に笹やヒバといった飾り葉を敷いた上に置くことで、より美しく仕上ります。

そもそもこの「おさまりのよさ」「様になる」とは何なのかを言語化しますと、「見たことあるシーンの再現」なのです。冒頭でも書きましたように、野菜や魚などが八百屋の店頭で盆ざるの上に乗っている状態が私たちの脳裏に焼き付いていますので、撮影時に被写体となる野菜を盆ざる上に載せることで「記憶と同じように配置できた=それらしく仕上がった」と感じるのです。

少し話はずれますが、ライティングでも同じことが言えます。ライティングは自然光のシミュレーションが基本です。空に太陽の光があって、太陽の光を拡散して空全体を明るく照らす青空があります。そこから降り注いできた光が地上の被写体を照らしている状態がライティングの基準です。ここから「朝は低い位置から光線が差し込んでくる」「正午は頭上から」といった感じで、自分が表現したい環境の光線状態をシミュレーションして仕上げます。なぜ自然光をシミュレーションするのか。それは自然光の光線状態はみんなの脳裏に焼き付いていて、意識せずとも「真上から照らしつける強い光は真夏の正午っぽい」とか「低い位置から差し込んできて長い影を作るオレンジの光は夕暮れ時っぽい」と認識できるのです。ですので、ライティングにしても今回の盆ざるにしても「みんなが普通と思う状態」をイメージして、その状態をシミュレーションすることがセッティングの基本であるという点をご認識ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です