ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

商品の立体感を出す「八百屋」という被写体配置方法

はじめに

突然ですが「八百屋」って知ってますか?野菜や果物を売っているあの八百屋ではなく、写真や映像の現場用語としての「八百屋」です。読んで字のごとく、被写体を八百屋のディスプレイのように傾斜をつけて配置することを「八百屋」と言うのですが、聞いたことありますでしょうか?今回はこの「八百屋」という配置がどういうもので、どのような時に使うものなのか紹介します。

本を八百屋で撮ってみる

まずは実例から。

ビジネスパーソンであればけっこう多くの人が読んだことあるのではないでしょうか?クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」です。ですが、今回はこの本の中身は全く関係ありません。今回の実例用にちょうどいい被写体を探していたところ、たまたま手元にこの本があったので被写体に使ってみました。

この写真は見ての通り、表紙を真正面から上下左右の歪みなく撮影しています。「こんなの普通じゃない?」と感じる方もいるかもしれませんが、ちゃんと考えて撮らないとこのように歪みのない写真は撮れないのです。

先ほどの実例写真の撮影風景がこちらです。本の後ろに黒いブロック状のものをかませて本を斜めに配置しています。そして本の表紙から垂直線上にカメラを設置しています。それではこのように斜め配置しなかったらどういった写真になるか見てみましょう。

先ほどの実例のように本を斜めに起こして配置せず、テーブルに直置きして撮影したのがこの写真です。右側の写真を見てもらうと一目瞭然。本の下部が広く、上部がすぼまった形に写っています。当然のことながらこの本の正確な形はこのような台形ではなく長方形です。言うなれば本をテーブルに直置きして撮った台形の写真は「商品の形を正しく表現できていない写真」と言えます。

もちろん本やCD、DVDなどは元々どういった形をしているのか視聴者が自らイメージすることができるので「この写真は本当はきれいな長方形なんだな」と脳内補完しながら見てくれます。でも、誰もが初めて見るようなものの場合は形状の想像がつかいないので、撮影された写真だけを見て「これは元々がこういった形なのか?」か「撮影時に斜めから撮っているので歪んで見えるのか?」といった判断ができない場合があります。

例えば間口の広いショルダーバッグをイメージしてみてください。間口が広くて底が狭くなっているデザインのバッグってけっこうありますよね。ECでこういったバッグを販売する場合、商品の形状を正しく表現できるように撮らないと、写真で見たイメージと商品が届いたときの実物のイメージが違うということが起こりかねません。

ちょっと脇道にそれちゃったので、話を再びを八百屋に戻します。これが「八百屋」と呼ばれる被写体の配置方法です。八百屋とはその名の通り野菜や果物を販売する、いわゆる八百屋が語源です。八百屋では商品がこのように斜めにディスプレイされていることから、転じてこのような被写体の配置を「八百屋」と呼ぶようになりました。

ちなみに、本を真正面から撮るのであれば、このようにテーブルに本を直置きしてカメラを真俯瞰にセットしても同じように撮影することができます。でも三脚を使って真俯瞰のように真下を撮影するのはけっこう難易度が高いのです。一度手持ちの三脚でトライしてみていただければわかりますが、そもそも雲台が真下を向くような構造になっていないものが多く、仮に真下を向けられたとしても三脚の足が邪魔して真下をうまく撮ることができないのです。この撮影風景を見ていただくと三脚を極端に前傾姿勢でセットしているのが見てとれると思います。こうやって撮ることも不可能ではないのですが、機材の固定が不安定になるのでお勧めしません。

八百屋で撮ることによる効果

八百屋とは本やDVDなどの平べったいものを撮るためだけの置き方ではありません。あらためて八百屋の店頭ディスプレイをイメージしてみてください。八百屋で販売している商品はザルに盛られていることが多いと思います。トマト3個で200円、きゅうり3本で200円といった感じ。このザルの後ろにはカマシを置いて斜めになるように配置されています。これは道を歩く人たちに商品が最もよく見えるようにしているのです。なぜ斜めに配置することで商品がよく見えるのか。それは直置きではなく斜めに配置することで商品に高さが生まれ、立体感が表現できるからです。

こちらは食材撮影の容器として盆ざる万能論の記事を書いたときに掲載した写真です。八百屋の店頭ディスプレイもこんな感じでざるの上に野菜が載せられていることが多いと思います。この写真を撮るときは盆ざるそのものはテーブルに直置きしましたが、パプリカの立体感を出すために赤いパプリカの裏あたりにカマシを置いて、3つのパプリカを立たせることで立体感を表現しています。

こちらも以前撮影したリップの写真。こちらは八百屋の発展型です。リップ本体とキャップの両方をテーブルから浮かせて、向きをクロスさせるように配置して手前側に傾斜がつくようにしています。ここにあえてクッキリ影が出るようなライティングをして被写体が浮かび上がっているような様子を表現しています。

まとめ

八百屋という配置方法がどんなものかイメージできましたでしょうか?被写体をテーブルに直置きするよりも、ちょっと傾けて配置するだけで見え方が変わってくるものです。被写体の置き方は八百屋だけでなく、それこそ無数に配置のパターンが存在しますし、被写体の置き方や置く向きをちょっと変えるだけで仕上がりのイメージが大きく変わります。ですので、撮影時は被写体を上下左右あらゆる場所から観察して、どうやれば最も目的に沿った画が撮れるか?どうやれば最も撮りやすいか?と、あれこれ探ってみることをお勧めします。

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