ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

飛び出すワイン

はじめに

先日アップした「ライムの水しぶき」と同じ日に同じセットで別カットを撮影していました。

このサイズのビニールプールを電動ポンプで膨らませるのはかなり手間なので、1カットの撮影のためだけにセットするのはもったいない。そこで、この日は3種類の被写体を用意して撮影に臨みました。今回撮影したのは飛び出すワイン。こちらもライムの水しぶきと同様、飲料の広告でよく目にするクリエイティブです。

なお、このモチーフは自分で思いついたものではなく、海外のフォト系YouTuberの動画を巡っていて見つけたものです。こういったクリエイティブは目にすることが多いとはいえ、特に何の手がかりもない状態では単純にむちゃくちゃ手間がかかりそうなので自発的にトライしようとは考えてもみないものです。でもこういった実例があると「いっちょトライしてみるか」と思えてしまうから不思議です。

セッティング

ライムの水しぶき」と全く同じセットで全く同じフラッシュの配置ですが、発光させているスヌート付きフラッシュを向かって右のものへ変更しています。

今回はカメラから向かって左側からグラスを振って中身を飛び出させます。同じ方向からライトを発光すると私の手に光が遮られてしまう可能性があるので、向かって右側からライトを発光してグラスや中身の液体にハイライトを入れます。カメラは以下のような設定値です。

カメラEOS 5D MarkIII
レンズEF70-200mm f/2.8L IS
ISO感度100
露出プログラムマニュアル
シャッタースピード1/200
絞りf/8.0

なお、これまで紹介した「電球スプラッシュ」や「ライムの水しぶき」は電球やグラスといったメイン被写体を固定した状態で、後から水やライムをフレームインさせてタイミングよくシャッターを押すだけだったのですが、今回はメイン被写体のグラスを人の手で振るわけです。撮影の瞬間にピントを合わせることができませんので、ここは必殺「置きピン」です。あらかじめグラスを動かす範囲を決めておいて、そこでピントを合わせます。置きピン位置にバミリを入れておいて、ピントの線上でグラスを振ります。とはいえ若干の前後ズレは発生しますし、飛び出した色水がピントの範囲外に飛んでいってしまう可能性もあります。こんな状態で被写界深度が極薄のf/2.8などで撮影してしまうとかなりの確率でピンぼけになってしまうので、絞りをf/8.0にして合焦範囲を多少厚めに確保します。

撮影の段取り

この写真、カメラの設定やライティングはそれほど複雑ではありません。何はともあれ「キレイに液体が飛び出している様子」を撮れるまで、ひたすらグラスを振って中身を飛ばして、また補充しての繰り返し。もはや持久戦です。ちなみにこの写真は赤ワインが飛び出している様子をイメージしているのですが、本物の赤ワインを使ったらえらいことになるので、普通の水道水に食紅を入れてそれっぽい液体をあらかじめ大量に作っておいて撮影に臨みます。

この写真でグラスを揺すっているのは私の手です。ではシャッターを押しているのは誰かというと、これも私です。カメラにケーブルレリーズをつけて右手でレリーズを持ち、左手で色水の入ったグラスを持ちます。左手でグラスをヒョイッとゆらして色水を飛び出させた瞬間、タイミングを合わせてレリーズのボタンを押します。一度水を飛び出させるとグラスは空っぽになるので、色水を補充して再び撮影。飛び出た水がいい感じの形で撮れるまで、これをひたすら繰り返します。

そうやって何十回か撮影して「まぁ、このあたりかなー」と思えたテイクがこの4枚です。苦労の跡を感じ取っていただけるのではないかと思います。ここから吟味を重ね、最終的に右下をOKテイクとしました。

仕上げ作業

OKテイクが決まったので撮影そのものは終了です。ですが、作品としての完成まではもう少々手を加える必要があります。

この時点で余分な要素が多々写り込んでいます。

1.外周部のトレペ固定ガムテ、スタンド、プールの縁など
2.中央やや下の若干暗いスポット
3.グラスの外についた水滴
4.グラスを揺らす手

1の外周部については撮影時に画角をもうちょっとタイトにして写り込まないようにすることもできたのですが、飛び出す水しぶきをなるべく広い範囲で捉えておきたいと思い、後処理を入れる前提で若干ルーズ目な画角で撮っています。4は演出的に「人が手でグラスを揺すった」という表現をする場合は手を入れ込んでもよいとは思うのですが、今回は手を入れない状態で仕上げるつもりなのでこの手も余分な要素の一つです。もし手を入れ込むのであればグラスを逆手に持つのではなく順手で構えますし、手も明るく写るようにライティングする必要があります。

ということで1から3はトリミングとPhotoshopの「コンテンツに応じた塗りつぶし」「スポット修復ブラシツール」「コピースタンプツール」などで丁寧に消していきます。そして4の手はPhotoshopで消すのは大変なので、別途グラス上部を持って足部分がカラで写っている状態のテイクを用意します。

このグラス足部分カラ画を先程のOKテイクに合成して、グラスが宙に浮かんでいるような画を作ります。

さいごに

そうやって仕上がったのがこの写真です。今回のようなグラスが宙に浮いているような画は、前述のように手で持った状態で撮影して後からカラ画と合成して仕上げましたが、手で持たずに撮影する方法もあります。テグス(釣り糸)でグラスを吊り下げて振り子のようにグラスを揺らし、途中で何かにぶつけて中身を飛び出させるのです。YouTubeでは実際にテグスで吊り下げてグラスを飛び出させている動画もあるので、参考までに紹介します。

テグスを使う方法で撮影するかかなり考えたのですが、この方法だとセットが大げさになりますし、キレイな液体の軌跡を作り出すのが結構難しい気がしたので、今回は合成で仕上げました。

いかがでしたでしょうか?みなさんがこういった写真を撮る機会はけっこう少ないとは思いますが、こういった写真の撮り方の一連のプロセスの中から「この部分はあの撮影で使えるかも」「この照明配置だとこういった仕上がりになるのか」といった感じで参考にしてもらえると幸いです。

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