ひと目でピンとくる 伝わる写真の撮り方

大規模集合写真の撮影と仕上げ実例

はじめに

みなさん、集合写真を撮ったことありますか?仕事であれプライベートであれ、複数人数を一度にフレームに収める「集合写真」を撮影する機会も多いのではないかと思います。

そもそも、なぜみんな集合写真を撮影したがるのか。集合写真を撮ろうとする人はどういった意図を持っていて、そのためにはどのように撮ればいいのか。2017年に私が撮影を担当したヤフーの社員大会の集合写真を例に、撮影時の留意点を具体的に紹介します。

そもそも集合写真とは?

集合写真は大きく分けて2通りの目的があります。

  • 人に見せる集合写真
  • 自分たちが見る集合写真

人に見せる集合写真は被写体や集団がどういった存在なのかを伝えることが目的となります。企業の役員集合写真であれば、役員にどんな人がいてどんな表情をしているのか。その結果どういった印象を抱いてもらいたいか考えて撮影を行い舞う。

一方、自分たちが見る集合写真は基本的には「記念」であり「思い出」です。こういった目的の写真なので、被写体の人が自分が映った集合写真を見たときに、最初に見るのは「自分の顔」です。自分が映っている集合写真ですから、まずは自分がちゃんと映っているか見たくなるものです。その後に「あの人映ってるかな?」「この人どんな表情してるかな?」と一緒に映ったであろう他の人の顔に目線を移していきます。

それゆえ、集合写真は被写体の人たちの顔がちゃんと映っていることがすごく大切です。

  • 顔が見えているか(前列の人の頭で後列の人の顔が隠れていないか)
  • 顔が明るく見えるか(ライティング)
  • 目線が合っているか(カメラ目線か?目をつぶっていないか?)

このあたりがすごく大切になってきます。

ちなみに、今回の集合写真は「自分たちが見る集合写真」であるのと同時に、社外に公開する「人に見せる集合写真」という両方の目的を併せ持っています。それゆえ最前列の役員、客席の社員たちという配置にしています。「客席を埋め尽くす社員たち」という写真だと人数が多いことは伝わるのですが、知らない人がパッと見たら一般のライブの様子なのかヤフーの社員大会なのか見分けがつきません。そこで社外の人に「これはヤフーの社員大会ですよ」ということを伝えるために、最前列に役員たちを並べています。

撮影の前に考えること

集合写真撮影の本番では多くの人たちが目の前にいるので、撮影の段階で画角やライティングであれこれ悩んでいる時間はありません。できることなら事前のリハーサルに参加する、リハーサルがなかったとした事前に現場を下見するなどして、大まかにでも画角や明るさの目処をつけておくことが大切です。

画角を決める

三脚が使えるならば使うに越したことはありません。イベント会場はそれほど明るくないのでシャッタースピードを上げるにしても限界がありますので、手ブレを防ぐためにもがっちりした三脚を使えると安心です。それに加えてもう一つ重要なのが水平を維持すること。今回の会場のように左右対称のホールではちょっとでも水平がずれると写真全体の傾きが目立ってしまいますので、安定して水平を出すためにも三脚は有効です。

リハーサルの段階で三脚の設置位置を確定させてバミリを入れておき、三脚の足の高さや角度もがっちり固めておきます。いざ本場が始まったら素早くバミりの位置に三脚を置いてファインダーをのぞき、水平とフォーカスを微調整するだけですぐ撮れるような状態を作っておくことが重要です。

リハーサルで決めた通りの焦点距離に合わせて画角を決めます。前述のようにきちんと水平を出すことを忘れずに。ピントは最前列中央の人に合わせます。広角レンズなので元々ボケが発生しにくいため、ある程度絞ってやることで背景までしっかりとピントを合わせることができます。

光のバランスを考える

環境の明るさ

最前列役員集団と客席の両方を明るく撮るためには、まず背景の明るさに露出を合わせる必要があります。なぜならば、背景の明かりはフォトグラファーがコントロールできないから。背景はいわば環境光です。会場全体の明るさは客席照明によって作られているわけで、あれだけ広大なエリアにストロボを当てて明るくすることはできません。一方で最前列の役員たちは人数が多いながらも場所が限定されているため、ストロボを当ててフォローすることができます。よって背景となる客席に露出を合わせて手前の役員にストロボを当てることにします。

とはいえ、この手のホールはどうしても暗い。客席照明をフルにした状態でも客席を普通に撮るための設定はISO6400でSS1/30、f/8.0となります。やろうと思えば絞りをf/2.8にしてSS/1/60、ISO1600にするという手もあります。この方が被写体ブレの危険もなくなり高感度ノイズも気にならなくなります。ですが、f/2.8だといくら広角とはいえ背景が若干ボケてしまいます。撮影の安全を期すならf/2.8ですが写真の意図を鑑みると、やはり背景のボケはなるべく発生させたくありません。よってパンフォーカスが得られるf/8.0にします。SSについては三脚を使っているから手ブレの心配は排除できますが、気になるのは被写体ブレです。この手の集合写真は合図に合わせてシャッターを切るので、被写体のみなさんは一瞬止まってくれます。とはいえ一瞬だけですので、それほど長い時間止まってくれるわけではありません。本当ならばSS1/8ぐらいで撮りたいところなのですが、これだと絶対誰か動いてしまいますので、動きを止めるギリギリのラインでSS1/30をセレクト。f/8.0、SS1/30に合わせたISO感度ということで6400に設定。

カメラEOS 5D MarkIII
レンズEF16-35mm F2.8L
焦点距離16mm
モードM
ISO感度6400
SS1/30
絞り8.0
照明クリップオンストロボ(GN58)x2灯
シェーピングアンブレラ43inch
ストロボ設定M
出力1/16
色温度A5フィルター

人物の明るさ

カメラのパラメータ設定が決まって全体の明るさが決まったら、次に考えるのは最前列の役員の明るさです。客席と全く同じように役員にも客席照明が当たるのであれば何も手を加える必要はないのですが、実際は明るさが全然違うので手を入れる必要があります。

この手のホールの特徴として客席エリアは客電(客席天井の照明)が均等に当たるようになっているのですが、この写真で役員が並んでいるステージ直下、もしくはステージ上には客電の明かりが届きません。ステージ上から客席側を撮影するとなると客席は客電で明るくなっているものの、ステージ下は客電で逆行状態になってしまいます。仮にステージ上の照明を点灯したとしても、これらは基本的にステージ上を「客席側から見たとき」に明るく見えるように調整されているので、今回の写真のようなシチュエーションでは助けになりません。

こういった状況ですので役員たちの顔を明るく撮るためにはステージ側から照明を当ててあげる必要があります。ということでストロボを炊くことにしました。しかしクリップオンの直当ては照射エリアが狭いため、前列役員の中央だけ明るく、サイドが暗く落ちてしまいます。しかもE-TTLで当てようものなら手前だけ明るくなって背景の客席が暗く落ちてしまいます。そこで今回は照射エリアを広げるためにストロボを2台用意。カメラへのクリップオンではなくリモートトランスミッタを使ってオフカメラで使用、さらに光を拡散させるためにアンブレラを使います。アンブレラはソフトボックスやトレペに比べて光の拡散範囲が広いという特徴があります。一般的な撮影の場合、アンブレラは光が拡散しすぎて意図せぬ場所に光が漏れてしまうことも多くて状況によっては使い勝手が悪いこともあるのですが、今回のようにとにかく拡散させたいときには打ってつけのアイテムです。前述のライティングプランのようにカメラの左右からアンブレラで被写体に向けてストロボを照射することで前列役員軍団の全体に均等に光が当たるよう調整しました。あとは光量調整。カメラの設定は背景の客席を適正露出にするように合わせていますので、この状態で役員軍団の顔が適正露出になるようにストロボの光量調整を行います。この手の調整を行うためにはE-TTLはオフにしてマニュアルで設定するしかありません。リハーサルで光量を徐々に変えながら撮影を繰り返し適正露出を探った結果、1/16発光でちょうどいい塩梅となりました。ストロボの位置もリハのタイミングでバミっておいて、本番のタイミングではストロボの電源を入れてバミの位置に運び込むだけの状態にしておきます。

色を合わせる

ストロボを使うとなると色温度に気を使わなければなりません。この手のホールの照明は間違いなくタングステン光で、いわゆる電球色と言われる明かりです。蛍光灯と比べると電球はオレンジっぽい色調でして色温度は3200Kぐらい。一方のストロボは太陽光より若干青めの6000Kぐらい。この状態で写真を撮るとフラッシュが当たる手前の役員は白っぽくなり、タングステン光の客席は強いオレンジ色となります。この前のステップまで済ませておけば「光量」だけで言えば背景も手前もしっかり明るく写ります。ですが、色が全く違うのでホール独特の雰囲気が全く消え去ってしまいます。そこで色温度を合わせるためにフィルターを使用します。

前述のように客席のライトを変えることはできませんので、手前に当てるストロボの色温度をホールのタングステン光に合わせる必要があります。このような時に使うのが色温度変換フィルターです。規格が決まっていて、色をオレンジっぽくしたい場合はA(アンバー)フィルター、逆に青っぽくしたい場合はB(ブルー)フィルターを使います。それぞれ変換したい色温度の幅に応じてA-1、A-3のようにバリエーションが分かれています。今回は青っぽいストロボをオレンジにしたいわけですからAタイプ、下げ幅は6000Kから3200KですからA-5フィルターを使います。A-5は6500Kを3200Kに変換できる濃い目のフィルターです。このフィルターをストロボの照射口に貼り付けることで、前列の役員に客席とほぼ同じ色温度の光を当てることができるようになります。

本番撮影

撮影の合図で一度に数枚シャッターを切ります。そしてプレビュー確認して問題の有無を確認して、あらためてもう一度撮影の合図とともに数枚シャッターを切ります。一度に数枚シャッターを切るのは、目つぶりのリスクヘッジのためです。

この時は3回撮り直しました。テイク1を撮ってプレビューした結果を受けて軽微な修正を加えて、念のためとテイク2を撮影。2回目の画像チェックしている最中、現場の空気感としては「もうこれでOKでしょ?終わりでしょ?」といった感じが漂っていたのですが、画像チェックの結果、後処理でも直せないクリティカルなポイント(後述)を発見したため、その場で「最後にもう1枚だけお願いします!」とテイク3を撮らせてもらうことにしました。こういった時に場の空気に流されて安易にOKを出してしまうと後々取り返しがつかないことになりますし、結果的に写真を楽しみにしていただいているクライアントの期待を裏切ることになるので、妥協せずにもう一度撮影させてもらうようお願いすることをお勧めします。

ベースが暗いのは想定通り。シャッタースピードを稼ぐためにISO感度を1段ほどアンダーに設定して、後ほどRAWで露出補正をかける前提です。なのでこの時点では問題ありません。

OKテイクを決める

【テイク1】

ポーズやライティングは悪くないが、手前のパネルがやや曲がっていた。なお、テイク1撮影直後のプレビューチェックでは見逃してしまったのですが、後列の左から4番目と右から3番目の人が前列の人に被って顔が見えなくなっています。

【テイク2】

テイク1のプレビュー結果を受けてパネルを正しい位置に修正。テイク2撮影後のプレビューではじめてテイク1から後列の2人の顔被りを発見。パネルなんかよりも顔被りの方が深刻であるため、再度の撮り直しを決断。テイク1の時点で顔被りに気づけていたらテイク2の時点で完了だったのに、とチェック不足に反省。

【テイク3】

顔被りは解消。パネルが再び微妙にずれてしまったが許容範囲。

OKテイクからOKショットを決める

前項で書いたようにテイク1から3のうち「テイク3」をOKテイクとして採用。テイク3はシャッターを3回押しているので、3ショットのうちからOKショットを選ぶ。

【テイク3-ショット1】

前列一番右側がカメラを向いておらず、右から3番目が目をつぶっているのでNG。

【テイク3-ショット2】

後列一番左側がカメラを向いていないのでNG。

【テイク3-ショット3】

だいたい全員カメラ目線になっているので、とりあえずこのショットを採用。

こういった写真のOK・NGを選定する基準。

  • メイン被写体の全員が目をあけている(目つぶりがない)
  • しっかりカメラ目線になっている
  • 前列後列の顔かぶりがない
  • ポーズや表情がよい

この基準に照らし合わせて考えるとテイク3-ショット3がベスト。ただしテイク2の撮影後のプレビュータイミングで三脚の足に私の足がちょっとだけひっかかって三脚がごくごく微妙にずれてしまいました。そこでテイク3-ショット3のOKショットを後工程で修正します。

仕上げ工程

ベースの会場明かりを適正光量に補正

まずはテイク3-ショット3のRAWをLightroomで+1.3補正かける。これだけプラス補正をかけると当然のことながらノイズが目立つので、ノイズ軽減フィルタも同時にかける。この時点ではまだ光量的に気になるところは多々残っているが、とりあえず後工程にまわす。

露出補正前

+1.3補正

全体プラス補正後でもまだ気になるところ

  • 後列の顔が若干暗い
  • 前列も中央と両サイドで明るさに若干の差が
  • パネルが明るすぎて合成のように見える

個別の明るさ補正

補正すべきは2点。1)役員の顔の明るさを同じレベルに合わせる。2)パネルが明るすぎるので若干押さえる。

役員の顔

特に後列が顕著だが、ストロボ光が届いていない人の顔をPhotoshopの「覆い焼きツール」で明るく持ち上げる。前列両サイドもストロボ光の当たりが弱く若干暗い印象なので、同じく多い焼きツールで明るく持ち上げる。

パネルの明るさ

パネルが明るすぎて合成のように見えてしまうので、若干明るさを落とします。直線で囲って明るさを落としてもいいが、今回はPhotoshopの「焼き込みツール」でサーッと一回なぞって薄っすら暗く仕上げる。

傾き&歪み補正

前述のようにテイク3は三脚が動いてカメラそのものが若干上手ヨリになってしまったため、会場全体が少しだけ歪んで見えます。Photoshopの「変形」メニューの「自由な形に」で合わせるわけですが、何のガイドもなくフリーハンドだと大変合わせにくい。なのでPhotoshopで「正しい角度で撮れているテイク2」をベースにテイク3の写真をレイヤーで重ねる。テイク3レイヤーを「差の絶対値」にして主に四隅を中心に位置を合わせていく。

Photoshopの「差の絶対値」は重ねた2枚のレイヤーが完全一致した場所が黒く表示されるモード。上の2枚を見比べると左側は天井の照明や両サイドの吹き抜け柱などが色つきで表示されていますが、右側を見ると照明や柱はほぼ真っ黒になっています。これはレイヤー2枚の絵柄が完全に一致したということ。人物が完全に一致しないのはある意味当然で、人は微妙に動くので別テイクの写真同士を重ねても一致しないものです。

まとめ

こうやって仕上がったのがこの写真です。いかがでしたでしょうか?ちなみに、この時はイベント終了直後に冒頭でリンク掲載した同社の公式SNSでこの写真が公開される予定だったので、撮影直後にステージの裏で写真のセレクト&現像作業に入りました。撮影終了からイベント終了までの時間は10分。この間に仕上げる必要がありました。

撮影直後にステージの裏、大急ぎでRAW現像など写真の仕上げをする筆者の様子

撮影直後のプレビューでOKテイクは大方の目星をつけていたのでセレクトはスピーディーに完了。その後の現像作業は前述の(1)ベースの会場明かりを適正光量に補正と(2)個別の明るさ補正をクイックに対応。(3)の傾き補正は単純な傾きだけであれば簡単なのですが、超広角ズームによる歪みの補正も必要で若干時間がかかるので、SNS公開用の速報対応ではスキップ。その後の本納品時にあらためて傾きと歪みを補正したものを納品しました。

いかがでしたでしょうか?集合写真ひとつとっても検討すべきことが結構多いことがおわかりいただけたのではないかと思います。冒頭に話に戻りますが、集合写真で大切なのは「誰が見るのか」「その人は写真のどこを見るか」を考えて画作りを行うことが大切です。もし今後みなさんが集合写真を撮ることがありましたら、この記事のことを思い出していただければ幸いです。

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